TARO NASUは、スイス人アーティスト、ダヴィッド・ヴァイスの日本初となる個展を開催し、1969年から1979年の活動初期に描かれたドローイング作品を展示いたします。
「ありふれた日常に潜む美」をとらえたヴァイス初期作品は、ほとんど世に知られることはなかった。2012年、晩年最後の数か月になって、ヴァイスは自宅で保管していた70年代のノート、ドローイングをはじめとした数多くの作品にあらためて向き合いはじめ、アーカイブ整理を進めた。そうした作品はその後、ヨーロッパやアメリカにおける書籍出版や展覧会に結実してゆくのだった。
本展のタイトルである「After the Kontiki(Nach der Kontiki)」は、ネオカラー耐水性ワックスパステルによるグラッタージュ技法が特徴の同名の作品シリ―ズから拝借したもの。コンティキ(Kontiki)とは、チューリヒの旧市街で70~80年代にアーティストが集まる場所として知られていたバーである。当時のチューリヒ市には午前0時には閉店しなければならない条例があったのだが、本シリーズ作品においてダヴィッド・ヴァイスは、バーが閉店した後の世界を脳裏に描きだしている。
ネオカラーによるドローイングシリーズに加えて、今回TARO NASUでは、夜の街を描きだした大判の水彩画「Quiet Night」シリーズから数点、同じく大判で墨を使って紙に描いた「Netzbild」(“ウェブ/網の目 ドローイング“の意)1点といった初期の重要作品を深掘りして展示。同作品では紙上に墨が広範囲にわたって塗布されているが、筆跡は視認できない。ここでの黒の役割は、コンテンツあるいはモチーフを描き入れることではなく、下地の紙の細い線を残すことによって、ミニマリスト的アプローチでネットワーク構造を浮き彫りにすることにある。
のちにペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイスという世界的な現代アーティストデュオの一人として有名になる、ダヴィッド・ヴァイスの出発点を肌で感じられる本展を心ゆくまでご堪能ください。
作家略歴
ダヴィッド・ヴァイス、1946年チューリヒ生まれ。チューリヒ、ロサンゼルス、スイス・カローナを拠点に活動。2012年逝去。
教区司祭と教師を職業とする両親に育てられたダヴィッド・ヴァイスは、16歳でジャズに夢中になり、チューリヒの工芸学校の基礎コースに入学。1年目でアーティスト仲間のウルス・リュティと親交を深める。デコレーター、グラフィックデザイナー、写真家の道を諦めたヴァイスだが、アーティストを現実的な選択肢として考えるようになるまで時間はかからなかった。チューリヒの工芸学校(1963-64)、バーゼルの工芸学校(1964-65)を経て、彫刻家としてアルフレッド・グルーダー(バーゼル)、ジャクリン・スティーガー(イングランド)らと活動。1967年にモントリオール万国博覧会に参加した後は渡米しニューヨークへ。当時の重要ムーブメントであったミニマルアートの世界に入り込んでゆく。1970年から1979年にかけてリュティとの共著で数々の書籍を出版。1975年から1978年には、墨で描く作品に精力的に取り組み、チューリヒ、アムステルダム、ケルン、ロッテルダムのギャラリーを舞台に発表。
1979年から始まったペーター・フィッシュリとのコラボレーションは2012年まで続いた。
2012年の逝去後は、チューリヒのダヴィッド・ヴァイス財団が、1968年から1981年にかけて発表された初期作品の維持管理を行っている。