TARO NASUではジェフ・ゲイス個展を開催いたします。
ジェフ・ゲイスは(1934-2018)はベルギー生まれ。
2009年に開催された第53回ヴェネチアビエンナーレではベルギー館の代表として展示する等、ヨーロッパを拠点として国際的に活躍した。アントワープの美術館KMSKAで、ゲイスの個展が開催された際(Koninklijk Museum of voor Schone Kunsten, 1971年)、展示の一環として当美術館を爆破するプロジェクトを同国の文部大臣宛に書簡で提案したことでもしられている。
主な展覧会として、「第53回ヴェネチアビエンナーレ」ベルギー館、ヴェニス(2009)、「Archive Fever」ICP、ニューヨーク(2008)、「Deep Comedy」 Marfa、テキサス(2007)、「!Women’s Questions? 1965-2006 」Orchard Gallery、ニューヨーク(2007)、「Jef Geys」IAC、ヴィルールバンヌ (2007)、「Women’s Questions」Pori Art Museum、ポリ、 「Jef Geys」Kunsthalle Lophem、ロッペン(2005)、「Retrospective」Van Abbemuseum, アイントホーフェン(2004); ドクメンタ11、カッセル(2002)、「Jef Geys」Kunstverein、ミュンヘン (2001)、Frac、シャンパーニュ=アルデンヌ地域圏(1995)、「What Are We Having for Dinner Tonight」FKA Witte de With、ロッテルダム(1993)、Palais des Beaux-Arts、ブリュッセル(1992)、「第21回サンパウロ・ヴィエンナーレ」サンパウロ(1991)など。
その特異な個性は作品世界にとどまらず美術教育の領域にも発揮されたという。1960年から1989年の間、ベルギー、バレンの学校で教鞭をとっていたゲイスは美術の本質を伝えるためには妥協を許さなかった。10歳から15歳の生徒たちのために、ルーチョ・フォンタナやロイ・リヒテンシュタイン、アンディ・ウォーホル等の実作品を教室に展示したり、授業の一環としてマルセル・ブロータスのスタジオへの訪問を実行したというのは、彼の啓蒙活動の最も有名な逸話として知られている。また1984年に学校内で彼が開催した展覧会には、ゲント美術館から借用した古典的名画とスタンリー・ブラウンの作品がともに展示されたことが記録されており、ゲイスの美術に対する広い視野と高い視座とを今に伝えている。
今回、展示されるのは、Black Paintingと通称される一連の作品群およびWork Listと題された作品リストを作品化したものである。Black Paintingは、既存の油彩画の一部分のみを残して黒く塗りつぶされた作品で、ゲイスは原画となる油彩画を、安価な絵画を大量販売する工房から購入して制作に臨んだ。大衆受けを狙って描かれ、ときには古今の名画から複製されたイメージのなかから、特定の部分を意図的に選んで残し、その他の部分は黒の絵具で「隠蔽する」という制作工程は、皮肉にも見るという行為の恣意性を「露呈させる」ものであり、美術の現場に交錯する眼差しの本質を問いかけるものであった。
Work Listシリーズは、先述のゲイスが企画した学校内展覧会の記録を含む作品や出版等、彼の過去の活動の記録で構成された表である。カタログレゾネはアーティストにとって自らの存在の歴史化のための重要な工程であり、その作業をキュレイターや美術史研究者に委ねることなく作家自らが編纂し、さらにそのもの自体を作品化するという行為は、ゲイスの作品世界のコンセプチュアルな個性を如実に表すものといえよう。
あくまでも身近な視点から既存の慣習や体制に対する徹底的な疑問を提示し、独特の誠実さをもって既成概念にとらわれない世界認識のあり方を模索したジェフ・ゲイスの、今回は日本での初の個展となる。