TARO NASUでは9月13日より、ブノワ・ピエロン「Fabric softener」を開催いたします。
ブノワ・ピエロン | Benoît Piéron
1983年 イヴリー=シュル=セーヌ生まれ。現在はパリにて制作、活動中。
近年の主な個展に、2024年「Benoît Piéron : Étoiles ou Tempêtes」Le Magasin, CNAC、グルノーブル ; 「Pudre de Riz」 Sultana、パリ; 2023年「Slumber Party」Chisenhale Gallery、 ロンドン ; 「Delicious Monstera」 Mumok、ウィーン ; 「Get Well Soon (Prologue) 」Ormston Housem、リムリック ; 「der pinkelnde tod」 Kunstverein Bielefeld、ビーレフェルド; 「Avant l’orage 」Bourse de Commerce、ピノー・コレクション、パリ; 「uMoya: The sacred Return of Lost Things」 リバプール・ビエンナーレ, リバプール ; 「Exposé.es」 パレ・ド・トーキョー、パリ ; 2022年「Illness Shower」Sultana、パリ; 「Horizones」Fondation Pernod Ricard、パリ ; 「Bandage」 galerie du Haïdouc à l’Antre Peaux, ブールジュ; 2021年「Deux drapeaux」Une Belladone, L’alcôve、パリ;「VIH/sida, l’épidémie n’est pas finie」 2021年Mucem、マルセイユ; 「Plaid」 シテ・インターナショナル・デザール、パリ; 「Mort is more」 Brasserie Atlas, ブリュッセル; 「Seconde peau, soft walls, patch.e.s & soap, Open Source Body」シテ・インターナショナル・デザール、パリ、他。国内では2014年に開催されたグループ展「コンダンサシオン:アーティスト・イン・レジデンス展 ― エルメスのアトリエにて」において作品を発表している。
ブノワ・ピエロンは自らの記憶や感覚をもとに人間と社会、生と死をテーマとして扱いながら、その個人的な体験を誰もが共有しうる普遍的な物語へと昇華させる作家である。幼少期を小児病棟で過ごしたピエロンにとって、生命をめぐるドラマは身近で苛烈な現実であり、その現実と折り合いをつけるために少年時代の彼が用いた想像力は、現在の彼の制作活動の基盤になっている。中間色を用いた華やかな色彩のハーモニーは彼の作品の特徴の一つとされるが、その色彩は病院の小児病棟のシーツの色に起因するものであり、彼の分身ともいえるコウモリ型をしたソフトスカルプチャーは、輸血の体験から生まれた吸血鬼幻想と結びついている。見慣れた日用品であるカーテンもまた、それが病室のカーテンであることに思いをはせてみれば、個人の領域とその外に広がる社会とを分つあまりに脆弱な壁としてのその存在に目を向けずにはいられない。ブノワの作品世界において、カーテンは内部がつねに外部からの侵略の脅威に脅かされていることを可視化したものともいえよう。と同時にその柔らかな布が囲い込むきわめて小さな空間のなかで、無限大に広がる想像力がはぐくまれ、ときには現実よりも確かな手応えすら感じさせる夢を紡ぐことを許してくれること、想像力や希望といったもっとも儚くみえるものの強靭さとしなやかさをも、ブノワの作品は教えてくれる。
特別協力 : Olivier Renaud_Clement